老後

四十年勤め上げた會社を退職し、何やら張り合いの無い日々を送る内、大學生
の孫に「退屈しのぎに遣って見たまへ」と勧められたエロゲヱ。
當初は「こんな電腦紙芝居、何たる幼稚加減」と莫迦にしてゐたものの、
遣つて見ると存外に面白ひ。
華やかな色彩の髪と目を持つうら若き乙女に「精三くん」と何度と無く呼ばれるにつけ、
食ふや食はずやで慌しく過ぎ去つた學生時代が自ずと思ひ返され、
「戰争さえ無ければ、小生もこのやうな青春が送れたやも知れぬ」
と獨りごちることも屡々。
すつかり虜となつた今では、孫の部屋から山吹色の圓盤をせしめては書斎に篭もり
存分に「萌へ」を堪能する毎日を送つている。

「加奈」なるゲヱムをプレイした際には、その余りに不憫な境遇と過酷な運命に
落涙し、台所で葱を刻む家内に「かような理不尽が許されていいものか!」と
熱弁を振るって呆れられる始末。年甲斐もない、とはこのことと後で赤面すること
しきり。
下手の横好きとはいえ「継続は力なり」の言葉通り、最近ではバッドルートの回避
やフラグの管理にも慣れ、「好きこそものの上手なれ」を座右の銘としてコンプリ
ヰトに励んでいる。
同年代の友人達が痴呆や重い病に悩まされるなか、老いて尚矍鑠として秋葉原
向かえるのも、ひとえにエロゲヱのおかげかと思えば、再三に渡る「さくらさくら]の
発売延期も、何やら「まだまだ死ぬには早いよ」と言われているようで愉快極まりない。
ひとつ間違えれば自らが乗り込んでいた機体と同じ名前を持つ少女に出会える日を
楽しみにしつつ、今日もディスプレイに向かう。

ほほう。